真言宗では、依経(えきょう=よりどころの経典)である『金剛頂経』と『大日経』によって、「金剛界(大日如来の智慧)」と「胎蔵界(大日如来の慈悲)」の2つの世界観を説いています。
仏菩薩の中で大日如来こそが最高の仏であり、この世界観を図示したものが、金剛界曼陀羅(まんだら)と胎蔵界曼陀羅です。
そして真言宗では、大日如来と心身ともに一体となって修行すれば、この身このまま仏になるという「我即大日」の即身成仏を説いています。
本尊
真言宗では元来、大日如来を根本仏としていますが、派や末寺によって多少異なり、大日如来を主体として、他に金剛界曼陀羅や胎蔵界曼陀羅、また曼陀羅に登場する仏菩薩などの諸尊を本尊としている場合もあります。
これら諸尊は大日如来より分出されるのであり、諸尊を本尊としても、それは大日如来を本尊とするのと同じなのだそうです。
所依(しょえ)の経典
真言宗は、『大日経』『金剛頂経』『蘇悉地経』の三部秘経、またはこれに『瑜祗経(ゆぎきょう)』『要略念誦経』を加えた五部秘経を根本経典としています。
顕密二教判
顕密二教判(けんみつにきょうはん)とは、空海が『弁顕密二教論』で説いた教義で、顕教と密教の勝劣を判じたものです。以下、簡単に概要を記します。
顕教……歴史上の釈尊によって説かれた随他意(ずいたい)・方便の教え
密教……大日如来が説いた随自意(ずいじい)の真実の教え
顕教……修行について説くが、悟りの境涯(きょうがい)を説くことができない教え
密教……悟りの境涯を説いた教え
顕教……生まれ変わり死に変わり、長い間修行しないと成仏できない教え
密教……即身成仏の教え
以上の違いによって、空海は「顕劣密勝(顕教は劣り、密教が勝れている)」と主張しました。
十住心判
十住心判(じゅうじゅうしんぱん)とは、空海が『十住心論』で説いたもので、真言行者の住心(宗教意識)を10種の段階にて示し、同時に密教・顕教を含めて他の宗教と比較したものです。
詳細は略しますが、この中で空海は、天台法華宗(法華経)を8番目に置き、その上の9番目に華厳宗(華厳経)を配し、最高位の10番目に真言宗(大日経)を配しました。 つまり、『法華経』は『華厳経』よりも劣る「三重下劣の経」「第三の戯論(けろん)」であるとし、真言宗を最高位としているのです。
さらに空海は、法華経の釈尊を「いまだ煩悩(ぼんのう)を断ち切らない迷いの位」と蔑(さげす)み、大日経の大日如来は「悟れる仏である」としています。
理同事勝(りどうじしょう)
【理同】
真言宗では、『大日経』の「心の実相」「我一切本初(がいっさいほんじょ)」「大那羅延力」と、『法華経』の「一念三千」「久遠実成(くおんじつじょう)」「二乗作仏(にじょうさぶつ)」は同じ法理であるとしています。
【事勝】
その上で、法華経には「意密(いみつ)」のみが説かれ、印と真言(呪文)の「身密(しんみつ)」と「口密(くみつ)」が示されていないので、事相においては三密(身口意)を完備した大日経が勝れていると説いています。