1200万円の“献上”、我が子の死、そしてママ友からの「洗脳支配」。
福岡5歳児餓死事件の深層を探ると、容疑者2人を主従関係で結びつけた“舞台”は人々を救うはずの「信仰の場」だった。
「香典は学会に渡した」
痩せ細った母親と幼い子供。その傍らにいつもいた巨体の女──。
福岡県篠栗町のマンションで昨年4月、5歳の男児が餓死した事件で、福岡県警が3月2日に保護責任者遺棄致死の容疑で逮捕したのは男児の母親・碇利恵容疑者(39)と、“ママ友”の赤堀恵美子容疑者(48)だった。
亡くなった男児は碇容疑者の三男・翔士郎ちゃんで、体重は同年代の半分、約10kgしかなかった。
社会部記者が語る。
「2人は5年前に子供の幼稚園が同じだったことで知り合っています。夫と3人の子供と暮らす赤堀容疑者と碇容疑者は互いの家を行き来する仲になり、次第に赤堀が食生活一切を管理するようになった。碇一家は赤堀容疑者から渡されるパンや米などわずかな食料を分けて食べていた。
さらに、赤堀容疑者は碇容疑者の夫の浮気や、幼稚園の他の保護者とのトラブルをでっちあげ、浮気調査や示談金などの名目で生活費のほとんどを騙し取った。赤堀容疑者に渡った総額は1200万円ほどとみられています」
その異様な関係性は、翔士郎ちゃんの死に際でも表われていた。動かなくなった我が子を前にして、碇容疑者が救急車を呼ぶよりも先に連絡したのは赤堀容疑者だった。
『週刊新潮』(3月18日号)によると、救急車が到着するまでの間、碇容疑者は翔士郎ちゃんのそばで“お題目”を唱えていたという。
「2人はママ友という関係だけでなく、『信仰』の接点もあったんです」
そう語るのは、10年ほど前から赤堀容疑者を知る地元住人だ。
「赤堀さんは創価学会員で、初めて会った人とか、近づきたい時にはいつも自分から言うとです。『私は学会やけん』って。碇さんも赤堀さんに勧められて創価学会に入ったと聞いています」
赤堀容疑者に指示されて碇容疑者は聖教新聞も購読していたという。
翔士郎ちゃんの葬儀では、赤堀容疑者が「葬儀代を学会が出した代わりに、香典は学会に渡した」と語っていたと報じられているが、地元の創価学会員からは怒りの声が上がった。
「学会として会員の葬儀の香典を受け取ることはない。あんな話は勝手に言ってるだけで、嘘です。赤堀さんは聖教新聞のお金も滞納したり、何か言われれば幼稚園でも学会のなかでもクレームを言うような人だったので(学会の)みなさんも困っていました」
精神科医の片田珠美氏が分析する。
「碇容疑者はマインドコントロールをされた状態で、赤堀容疑者は相手を意のままにするマニピュレーター(操作する人)だったように見受けられます。周囲から孤立させ、不安や恐怖を与え、自分に依存させるというのは典型的な手法です。
赤堀容疑者が碇容疑者を創価学会に勧誘したのであれば、ママ友としての関係に加えて、学会員としての経歴も長い赤堀容疑者は上の立場になるので、二重の主従関係があったと思われます」
「嘘はつけん」
赤堀容疑者と創価学会の関係は、親の代までさかのぼる。赤堀容疑者が生まれ育った福岡県大川市の実家の近隣住民で、一家と長年関係のある女性がこう明かす。
「私はあの一家に約350万円を貸したとして2008年に恵美子を債務者とした公正証書を交わしています。でも返済は滞り、まだ300万円が戻っていません。あの家は昔から町内会費300円のうち、お宮代50円を『学会やけん、お宮は関係ないけん』と払わなかった。(赤堀の)母親がうちにくると仏壇の前で大仰に手をこすり合わせて拝んどったね。母親も父親も金を借りるときは『学会員やけん、嘘はつけん』と言うのが常套句やった。そんな親と一緒に恵美子も来ていたから、そういう人との接し方を自然と覚えていったんでしょう」
福岡県在住の学会員はこう話す。
「創価学会内でお金の貸し借りはタブーです。でも学会員だった赤堀の親父は周囲から金を際限なく借りていた。それで借金がどんどん膨らんで地域にいられなくなり、一家は夜逃げのように引っ越していきました」
現在、父親は大川市から離れた地域で暮らしている。本誌記者が訪ねると、父親は自身も赤堀容疑者も学会員だと認めて、こう語る。
「それは隠すことはなか。(学会の活動は)今は足(移動手段)がなかけん家でしよるだけ。聖教新聞は取っとるよ。昔は配達もしよった。人生に役立っているし、学会の教えを(恵美子に)話したこともある。普通の宗教とは違うなと思って入信して、池田(大作)先生の書物ばずーっと読んでる。親もしよったけど、親から勧められたわけではなかよ。あれ(恵美子)も、こまい(小さい)時は入っとらん。強制も、勧めたこともなくて、結婚する前に自分で勝手に入っとった。
自分も苦しか時は、学会さんとか友達とかから(金を)借りたりはするばってん、学会の名を使って金を借りるってことはせん」
赤堀容疑者が碇容疑者を洗脳したと報じられていることについては、こう語った。
「金は借りたことはあるかもしれんよ、人間やけん。借りて払わんことはあるかもしれん。それは絶対なかとは言えん。
ただ、マインドコントロールにかかるのはずっと一緒におる人でしょ。娘は家庭があって帰るとよ。年中一緒におるならマインドコントロールにかかって、そら死なせたといわれてもしょうがなかかもしれん。でも親がおって、マインドコントロールされて我が子ば餓死させたってこと自体がおかしくない?
碇さんは大人しくて言いきらんで、うちの娘のことやけん、横から口出すくらいはしたかもしれん。ばってん、娘が先頭になって幼稚園に行かせるな、飯食わせるな、とはせんと思う」
創価学会の反応
今回の事件を創価学会はどのように受け止めているのか。古参の幹部学会員が明かす。
「容疑者2人が学会員だと報道されたため、我々も調べました。確かに20年ほど前に、福岡県で周囲から金を借りまくっているという会員(赤堀容疑者の実家)について地域から『困っているから本部で何とかならないか』という声が上がり、処分する方向で検討されていた。
だが、一家の行方が分からなくなった。一定期間連絡が取れなくなった会員は資格が失われるため、(赤堀の)一家も今は会員ではないという認識です。行方がわからないので通知ができておらず、父親は退会させられたことを知らないのだと思われます。赤堀は、結婚で姓も変わっていることもあって入会できたのでしょう」
創価学会に事実確認と、2人の学会員によって起きた事件についての見解を求めると、こう答えた。
「会員か否かのご質問には、お答えしておりません。なお、会員の懲戒について、創価学会会則に、以下の通り定めています。『第78条 この会は、会員としてふさわしくない言動をした会員に対し、その情状に応じ、戒告、活動停止または除名の処分を行なうことができる』」(広報室)
学会関係者はこう語る。
「全国各地に会員がおり、一般会員のすべてを把握するのは難しく、対応しようがないのが正直なところです。信仰したいという人が、たとえあらぬ思惑があったとしても拒むことはできません。
ただ、学会の入会誓約書には規定として、金銭賃借や、利益を図ることを目的として会の名称などを悪用する行為があれば処分の対象になるとあります。赤堀容疑者も、判決が確定し、規定にあたると判断されれば除名となる可能性はあるでしょう。一度除名になった人は、再び入会することはできません」
「万人の幸福」の実現を目指す信仰を舞台に、誰も救われない事件が起きてしまった。
※週刊ポスト2021年4月2日号